【書籍要約】『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』藤田孝典(著)・朝日新書

書籍要約, 高齢社会

『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』【要約】

日に一度しか食事をとれない、病院に行くことができず孤独死する。こういった老人は「今や至るところに存在する」と、埼玉県でNPO法人を運営する藤田孝典氏は言う。「下流老人」は、2015年当時の推定で600万人から700万人いると言われている、生活保護基準相当で暮らす高齢者の実態を、藤田氏の実体験とデータをもとに解説した書籍だ。

本書では、下流老人の定義に始まる第1章を皮切りに、平均年収が400万円あっても下流老人となってしまう理由、下流老人の日常生活、そして今からできる「下流老人にならないための対策」などを、7章に分けて具体的に提示している。

第1章 下流老人とは何か

藤田氏は、下流老人を定義づけるものとして3つの指標を掲げる。一つは「収入が著しく少ない」、次に「十分な貯蓄がない」、最後は「頼れる仲間がいない」ことだ。これらを指標にしたうえで、生活保護基準以下、つまり国が定める「健康で文化的な最低限度の生活」が送れない高齢者を下流老人と定義づけている。

下流老人の生活は悲痛だ。電気代を気にしてエアコンをつけずに熱中症を起こす人。三度の食事がとれない人。持ち家の修繕費用がまかなえず、すき間風や害虫に苦しんでいる人。公園で生活する人や、空腹のあまりコンビニ弁当を盗み、「刑務所に行かせてほしい」と懇願する人など。年金も少ない今、余生をゆったり過ごす高齢者のイメージはもはや現実的ではない。

今、貧困にあえぐ下流老人を「自己責任」と放置すれば、いずれ大きな社会問題になるだろう。例えば、40代男性の平均給与は568万円。しかし、これはあらゆる階層の年収を平均化した数値にすぎない。低所得者にとって、高齢の親を援助することは共倒れのリスクを抱えることだ。

親世代・子世代に経済的余裕がなくなると、若い世代は高齢者を尊敬できなくなる。また、高齢者に限らず、生活保護受給者などに対する差別意識も強まる。そうなると、日本人がこれまで築いてきた価値観や倫理観が崩壊するのではないか、と藤田氏は危惧する。

第2章 下流老人の現実

貧困問題はおろか、少子化・教育問題に対しても具体的な政策をとらず、「個人の努力」として国民に丸投げする日本。このような状況で、下流老人は国民全体の深刻な問題だ。しかし、多くの人は自分の問題としてとらえていない。

「自分がこんな状態になるなんて思いもしなかった」と、藤田氏のもとに相談に来た高齢者は異口同音にそう言う。埼玉県のNPO法人「ほっとプラス」。藤田氏は同団体の運営者として、年間約300人の生活相談に応じる。相談者の大半は貧困問題を抱えた高齢者だ。

本書第2章では、貧困に陥った下流老人が直面する現実を、事例をもとに紹介している。親の介護をするために離職した結果、野草で飢えをしのぐ男性。精神疾患で働けない子を養い、貯金が底をつく夫婦。天涯孤独で持病もあるため、医療費や墓地の永代供養料などで3,000万円の貯蓄が消えた人。認知症に気づかれず、職を失った人など。

下流老人に共通するのは、現役時代に比べて収入が激減するのに対し、医療や介護費用などで多額の支出が発生することだ。これを「想定外」と言う人は多いが、厚生労働省の調査によると、高齢者世帯の平均年収は約309万円。高齢者の約9割が平均以下の年収というから、決して他人事ではない。下流老人の貧困問題には根本的な政策が必要だ。

第3章 誰もがなりうる下流老人―「普通」から「下流」への典型的パターン―

自己責任論が根強い日本だが、下流老人は誰もがなりうるものである。実際に下流老人となった人のなかには、会社役員や公務員もいる。

事例を振り返ると、下流老人に陥るパターンがいくつかある。事故や病気による医療費の高額化、介護施設に入所できない、子どもが自立できない、熟年離婚、認知症を患いながらも頼れる人がいない。こういった状況が貧困を招く様子を第3章では紹介している。

また、年収400万円以下の層は下流老人になるリスクが高い、と藤田氏は述べる。未婚率の増加や少子化による相互扶助の縮小、企業の福利厚生や退職金の減少、生活を維持するためのコスト増などで、同じ年収400万でも昔のような余裕は望めないと言う。

さらに問題なのは、非正規雇用の増加だろう。家族を作らないことは、高齢者が社会的に孤立するリスクを高める。しかし、現状は長時間労働・低賃金など、経済的な理由で結婚しない人が増えている。非正規雇用者の割合が40%とも言われている今、「一億総下流」となる時代に備えて、雇用政策なども考えるべきだ。

 第4章 「努力論」「自己責任論」があなたを殺す日

高齢者の貧困に対して、なぜ何の対策もとられないのか。その背景には、「他者や地域に依存すること」を悪だとみなす風潮がないだろうか。また、下流老人を他人事に感じているのも問題だ。これに対処するには、国民全体が価値観を変える必要がある。

例えば、「生活困窮に至った理由は、本人の責任なのだから救済する必要がない」という、支援活動に否定的な意見。なかには貧困者に強制労働をさせろ、といった極端な意見もあるが、これは17世紀のイギリスと同じ思想ではないか。

イギリスでは、17世紀から19世紀にかけて、貧困者を収容所に送り強制労働に従事させた歴史がある。収容所に送られた貧困者たちのなかには、劣悪な環境で健康を害し亡くなる人もいた。貧困率の高い現代日本でこのような政策がとられた場合、貧困者に批判的だった側も、収容所送りになることはあるだろう。

個人的な感情で貧困者をバッシングすることは、下流老人の問題も見えにくくさせている。貧困問題を「甘え」で片付けず、周囲を見回して、貧困に関連する事件が身近に起こっていることを感じてほしい。生活保護などの制度は、当事者が申請しないと与えられないこともあり、問題が顕在化しにくい。我々は「共同体」として、貧困問題を意識すべきだ。

第5章 制度疲労と無策が生む下流老人―個人に依存する政府―

現状では、下流老人の問題に対して特効薬はない。日本の社会保障システムは「経済優先・弱者切り捨て」の原則に基づいているからだ。そこで、8つの視点から下流老人の問題を検証したい。

1 収入面の不備

年金制度は、介護や金銭面などでの、家族間での相互扶助を前提にしたものだ。しかし、独居や高齢者の夫婦二人暮らしが多い現状では、相互扶助が機能していないこともある。年金はあくまでも収入の補助でしかないが、2013年の調査では独居老人のうち、約半数が年収150万円以下だという。現状に即した年金制度の立て直しが迫られる。

2 貯蓄・資産面の不備

給与所得者の平均給与が減少している一方、物価は上昇傾向にある。消費税も上がる見込みのなか、支出ばかりが増えることになる。この現状を打開するには、ブラック企業や非正規雇用などの不安定な雇用に対する施策と同時に、若者の雇用対策も行う必要がある。

3 医療の不備

全国で、孤立死する高齢者が後を絶たない。医療費の問題、無保険、健康保険料の未払いなど、様々な問題からケアを受けることができない「医療難民」が増えている。孤立死する高齢者は何らかの疾患を抱えていることが多い。「無料低額診療施設」などの周知と、自治体・福祉関係者による困窮者への働きかけが必要ではないか。

4 介護保険の不備

下流老人のなかには、住む場所を失うケースもある。しかし、有料老人ホームなどは数が不足しているうえ、貧困層の利用を想定していない。介護保険制度にも不備が見られる。ケアマネジャーは高齢者の身体状況などを評価し、ケアプランを作成するが、ケアプランは当事者の経済状況を反映したものとは言い難い。

5 住宅の不備

「年金のほとんどが家賃に消える」という声がある。低所得者が入れるはずの公営住宅は、抽選によって決められる。しかし、首都圏での倍率は30倍から800倍にもなるのが現状だ。そのため、下流老人も家賃の高い民間賃貸住宅での生活を余儀なくされている。

6 関係性・つながり構築の不備

下流老人の多くは、自分から役所などの窓口に行けない・行かない事情がある。高齢者の孤立や詐欺などを防ぐためにも、行政や警察、福祉関係者が下流老人の早期発見・見守りのできる制度や政策が必要ではないか。

7 生活保護の不備

生活保護基準は、年々国によって引き下げられている。その理由はこうだ。貧困層の数が多すぎるから、基準を下げることで相対的に救済すべき対象を減らす。しかも、誰をどのような範囲で救済するか、といった基準は曖昧なのが現状である。さらに、生活保護の受給を「恥ずかしい」と感じさせる風潮もあり、制度が使いにくいものになっている。

8 労働・就労支援の不備

日本の高齢者は、収入のために働くことを余儀なくされている。実際、65歳以上の高齢者の就業者数は、2014年時点で681万人にもなる。しかし、老後に就労するとしても、十分な収入や保障があるとは言い難い。いわゆる「貧困ビジネス」が下流老人を搾取することを防ぐためにも、制度の根本的な見直しが必要だ。

第6章 自分でできる自己防衛策―どうすれば安らかな老後を迎えられるか―

下流老人になってしまったらどうするか。まずは利用できる制度、生活保護を正しく知ることが重要だ。生活保護の受給条件、手続の流れ、保護費の支給額や内容を知っておこう。生活保護の申請は居住地域の福祉事務所で行うが、住所不定・住民票がない場合でも申請はできる。ただし、受給内容や条件は各世帯の状況によって異なる。

 

生活保護に対する無理解をなくすためには、「施し」という考えを捨てるべきだ。生活保護は、足りない収入を補う社会保障の一つにすぎず、国民の権利でもある。生活保護を受給することに負い目を感じない社会の実現には、広告などでの周知も必要だろう。

 

また、下流老人にならないためには、余計なプライドを捨てる、老後に必要な資金を把握する、今のうちに病気や介護に備える、地域社会とのつながりを作ることが必要だ。特に人間関係における「貧富の差」は、幸福度を決定すると言っても過言ではない。豊かな人間関係を構築できる人は、たとえ下流老人になっても支援がスムーズに進み、最悪の事態をまぬがれることが多い。

第7章 一億総老後崩壊を防ぐために

年々貧困率が上がる日本。十分な教育を受けられない子どもは、将来も低所得・無年金・無保険などの問題にさらされるだろう。子どもの貧困問題は、下流老人を生み出す要因になりうる。社会を持続させるためにも、国は速やかに貧困対策を行うべきだ。

 

貧困を防ぐ方策として、「国家戦略としての貧困対策」がある。具体的には、貧困対策基本法の法制化や「タックスヘイブン」の対策、さらに、当事者が制度を受けやすくすることも大切だと言う。特に生活保護は重要だ。

 

生活保護は、生活・住宅・医療・教育・介護・葬祭・出産と、生活全体をカバーする社会保障だ。しかし、受給には心理的・条件的なハードルがあるのも現状。そこで、国民が安価な「保険料」を支払うことで、必要となった時に生活保護が受けられるようにしてはどうか、と藤田氏は提案する。それが「生活保護の保険化」だと言う。

 

下流老人はこれからも増えるだろう。住みやすい社会を構築するためには、貧困問題の当事者や市民が共に考え、行動することが大切である。また、当事者が声をあげることも重要だ。

おわりに

高齢者に限らず、シングルマザーや子ども、若者世代にまで貧困が広がっている。藤田氏は、自己責任論や個人の問題として放置されがちな貧困問題を、社会問題としてとらえるべきだと主張している。特に本書では「下流老人を生んでいるのは社会である」と明言する。

下流老人は、高齢者本人だけの問題ではない。藤田氏は、本書をもって読者が貧困問題を考え、政策や制度が変わるきっかけとなってほしいと述べる。さらに、生活に困窮する人たちの希望となることを願い、本書を締めくくっている。

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参考図書:下流老人(藤田孝典著・朝日新書・2015年7月第2刷)

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